『それは、大人の事情。』【完】

私の手を握り、嬉しそうピョンピョン跳ねる理央ちゃんを、なんとも言えない気持ちで見つめていた。


せっかく真司さんが私の背中を押してくれたのに、どうしてこんな事になっちゃったんだろう……あ、でもまだダメと決まったワケじゃない。蓮は私が真司さんと別れた事を知らない。その事を蓮に言えば、もしかしたら……


でも、そうなれば、理央ちゃんを悲しませる事になる。理央ちゃんの顔から笑顔を奪う事になるんだ。


心の中の葛藤は続き、明確な答えが出せないまま時間だけが過ぎていく。


気づけば、理央ちゃんはもうオーナーに、蓮と付き合う事になったと報告していた。それを聞いたオーナーも「蓮と理央ちゃん、とってもお似合いだよ」と満面の笑みを浮かべてる。


ちょっと冷静になって考えようと、二人から離れた席に座り呼吸を整え考えてみる。


もしここで何も言わなかったら、私は一生、後悔するかもしれない。でも、理央ちゃんが言ってた事が本当なら蓮はもう私を忘れる決心が付いたって事だよね。


それでも何も言わずに後悔するより、言って後悔する方がいい。それが、私の幸せを願ってくれた真司さんへのせめてもの恩返し。


ごめんね、理央ちゃん。理央ちゃんには悪いけど、私も蓮が好きなの。誰よりも好きなの。だから……許して。


覚悟を決め立ち上がると、カフェのドアが開いた。


「あぁ……蓮……」


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