『それは、大人の事情。』【完】
✤ レジューム


―――九ヶ月後


「……よく降るね」

「梅雨だもんね」


カフェの窓から恨めしそうにどんよりとした空を見上げ、ため息を付いているは、親友の佑月。


今日も朝から梅雨らしいシトシトとした雨が降り続き、オープンテラスに人影はない。そして珍しく、昼時だというのに店内にも私達以外のお客さんは居ない。


「どう? お腹目立ってきた?」

「う~ん、まだ五ヵ月だからね。ぽっこりって感じかな?」


愛おしそうに自分のお腹を擦る佑月を、私は目を細め見つめる。


九ヵ月前、真司さんと別れ、蓮とも決別し、仕事も失った私は、もう立ち直れないと思っていた。そんな私を救ってくれたのは、やっぱり親友の佑月だった。


新婚なのに旦那の修を家に残し、私のマンションに泊まり込んで、ずっと私の傍に居てくれた。特に何を言うでもなく、ただ隣に居てくれた。


今私がこうやって普通に笑っていられるのも、佑月のお陰。佑月が居なかったら私はどうなっていたたろう。今でも毎日、泣いて過ごしていたかもしれない。


「佑月もお母さんか~」


昨日、佑月から安定期に入ったからランチしない? って電話があったので、久しぶりにカフェで会う約束をした。実を言うと、このカフェに来るのは私も九ヶ月ぶりだったりする。


癒しを求めて足しげく通ったこのカフェは、悲しい別れの場所になってしまいそれ以来、なんとなく避けていた。


「まぁね~三十一歳の初産、頑張るよ! 梢恵も早く産まなきゃ高齢出産になっちゃうよ」

「ふふふっ……ご心配なく。私にはもう可愛い娘が居るから」


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