『それは、大人の事情。』【完】
「蓮が幸せだったら、いいんだよ」
それが私の本心。もう誰かを恨んだり、羨ましく思ったりする事に疲れちゃった。今はこの平凡な日常が続いてくれればいい。それが私の幸せだと思っているから。
今思えば、離婚を決意した蓮のお母さんの気持ちが、なんとなく分かる様な気がする。
そぼ降る雨を眺め微笑むと、カフェの前に宅配のトラックが止まったのが見えた。
カフェの入り口から「待ってたんだよ~ご苦労様」って声を弾ませオーナーが、大きな荷物を大事そうに抱えて戻って来る。
「オーナーさん、随分嬉しそうですね」
佑月が声を掛けるとオーナーは大きく頷き、まるで子供の様に無邪気な笑顔を見せた。
「うん、これ届くの楽しみにしてたんだよ~」
「なんですか? それ?」
「んっ? これはね~今日からギャラリーに展示する作品だよ」
へぇ~近所の常連さんの作品を展示してるだけだと思ったのに、わざわざ遠方から送ってくる人も居るんだ……と感心していると、オーナーが「見てみる?」と言って荷物を床に下す。
雨に濡れない様にナイロンが被せられ厳重に梱包されている荷物を解くと、何が入っているのか分からないくらい、緩衝剤が詰まってる。
「国宝級だね」って笑う私に「僕にとっては、それ以上たよ」と笑うオーナー。
そして、ようやく姿を現したフレームを三人で覗き込んだ時だった。オーナーの目に涙が溢れる。
「オーナー……これって……」
「うん、僕の姉の写真だよ」