『それは、大人の事情。』【完】
窓辺に立ち、海風に乱される髪を気にする事なく水平線から顔を覗かせた太陽を見つめる女性。
この場所は……そうだ。間違いない。あのリゾートホテルだ。って事は、これを撮ったのは、蓮のお父さんのハウエルさん?
「どうして、これを?」
「一週間くらい前、ハウエルから連絡があって、ウチのカフェのギャラリーに自分の作品を展示してもらえないってオファーがあったんだよ」
「ハウエルさんから?」
「そう、有名写真家のハウエルの作品なんて滅相もないって、初めは断ったんだけど、彼が、この写真は僕の店に飾ってもらうのが一番いいって。姉も喜ぶと思うって言ってくれてね。でも、ハウエルのだけじゃないよ」
ニッコリ笑ったオーナーが次に取り出した作品を見て、ほろ苦い過去が思い出され、やっと癒えたと思っていた心の古傷が疼いた。
「あっ……」
「蓮がここのギャラリーがオープンする時に同じ場所で撮った写真だよ。ハウエルが、今回のテーマは"原点"だって言ってた。だからハウエルは姉の写真。で、蓮はまたカメラを持つきっかけになったこの写真。
二人とも一番思い入れのある作品にしようって話し合って決めたそうだ」
思い入れ……か。ハウエルさんは分かるけど、蓮はなぜこの写真を選んだんだろう? なんだか違和感を覚える。
オーナーが二つの作品をギャラリーの壁に掛けてる様子をぼんやり眺めていると、佑月が小声で聞いてくる。
「どう? 久しぶりにあの写真見て、どんな気持ち?」
「どんなって、別に……一年前だから今よりちょっと若いかな? ってくらいだよ」
「それだけ?」
「他に何があるのよ?」