『それは、大人の事情。』【完】
「あ、はい、すみません」
せっかく親切に手を貸してくれるというのを断るのも悪いと思い、差し出されたその手を握ると……
「―――足、挫(くじ)かなかった?」
えっ……?
一瞬、もしかしてって思った。が、すぐに、とうとう自分も幻聴が聞こえる様になってしまったのかとショックを受ける。
でも……視界を遮っていた傘が横にズレ、その人物が顔を見せた時、それは幻聴なんかじゃなく―――
「また、おんぶしてあげようか?」
忘れる事が出来なかったあの、はにかんだ笑顔が目の前にあった。
「蓮……」
突然の出来事に頭が混乱して、どうしていいか分からない。そうこうしてると、蓮が繋いでいた手を引っ張り、私を抱き寄せる。
無邪気な笑顔は変わってないけど、少し逞しくなった様な……そんな気がする。
「懐かしい……梢恵さんの香りだ……」
「どうして……ここに居るの?」
「続きをしに帰って来たんだよ」
「続きって、なんの続き?」
「続きって言ったら、これしかないでしょ?」って言った蓮が、突然私の胸を手で覆い揉みしだく。
「な、何してんの?」
久しぶりの再会の後にすぐ胸を揉まれるとは思わなかったからジタバタと暴れていてると、蓮がクスリと笑う。
「梢恵さん、リゾートホテルで撮影が終わった後、こうやって俺の手を自分の胸に当てて言ったよね。私を蓮のモノにしてって」
「あ……」