『それは、大人の事情。』【完】

専務の娘という事もあり、邪険に出来ず初めは困惑していた部長だったが、彼女の一途な想いと明るさに徐々に惹かれていき、結婚を決意した。


専務も部長の仕事ぶりを高く評価し、将来有望と見込んだのだろう。話しはとんとん拍子に進み二人は結婚した。


「でもな、専務の娘と結婚した事で、周りからは色々言われたよ。それこそ出世目当てなんだろうとか、露骨に嫌味を言うヤツもいて。

だから俺は、それを否定する為に必死で働いて結果を出してきた。でもそれが家庭を崩壊させる原因になるとはな……」


その頃、娘さんが産まれ、奥さんは慣れない育児で疲れ切っていた。おまけに部長はほとんど家に帰らず仕事三昧の日々。


「きっと、寂しかったんだろう。そんな時、学生時代の友人にホストクラブに行ってストレス発散しようと誘われたみたいで……」

「えっ……じゃあ、奥さんの浮気の相手って……」

「そうだ。若いホストだよ。大金をつぎ込んでホストクラブ通いが続いていた。恥ずかしい話しだが、俺はその事に全く気付かなかったんだ」


眉間に深いシワを刻んだ部長が大きく息を吐く。


そして、ある日突然、奥さんから離婚を切り出され浮気の事を知った。部長にしてみれば、青天の霹靂。家族の為にと寝る間も惜しみ働いてきた事が最悪の結果を招いたのだから。


「離婚を決めたのは、妻の方。俺は捨てられたんだよ」

「あ……私はてっきり、部長が浮気した奥さんを許せず離婚を迫ったんだと思ってました」


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