『それは、大人の事情。』【完】
✤ 恋愛対象外
―――翌日
昨夜も真司さんは泊まっていけばいいと言ってくれたけど、私は後ろ髪を引かれる思いで自分のマンションに帰ってきた。
本音は当然、泊まりたかった。でも、三日続けて同じスーツで出社するワケにもいかない。それに、一刻も早く真司さんのマンションに移る用意もしたかった。
ただ、真司さんのマンションに行けば、あのお気に入りのカフェに行けなくなる。
今のマンションを選んだ最大の理由は、広い間取りでも小高い丘に建ち見晴らしがいいからでもない。徒歩であのカフェに行けるからだった。
休日はもとより、平日も会社帰りにふらっと寄っていたのに、これからは休日しか行けないな……
パソコンのキーを打つ手を休めオフィスの窓硝子に打ち付ける雨を眺めため息を漏らす。
ても、私を憂鬱にさせていたのは、カフェに行けなくなる事だけじゃなかった。実は、真司さんのマンションを出て帰ろうとした時、彼に言われた事があった。
毎週週末の土日のどちらかは、娘さんが真司さんに会いに来る事になってるそうで、貴重な娘との時間を父親として過ごしたいから、その日だけは自分のマンションに帰って欲しいと言われたんだ。
彼の気持ちは十分理解出来る。奥さんに未練はなくても、娘さんは可愛いに決まってる。あのタオルの一件で、彼がどれほど娘さんを愛してるかが分かったし。
でも、なんだろう……このモヤモヤした気持ちは?私は娘さんに嫉妬しているんだろうか?