『それは、大人の事情。』【完】
「えぇ~それ、どういう事?」
ワザと笑顔でトボけてみせる。でも、手に持ったグラスの中の冷酒が私の動揺した心を反影する様に微かに波打っていた。
もしかして、佑月は私と修が付き合っていた事を知ってたんじゃ……知ってて、親友として接してくれてたのだとしたら、私は、なんて言って佑月に謝ればいいんだろう。
佑月に申し訳ない気持ちでいっぱいになり、胸が苦しくなる。でも……
「……そういう事もあったんじゃないかって思っただけ」
「えっ?」
「梢恵が軽い気持ちでセフレなんてしてるのが、ずっとイヤだった。相手の女性の気持ちも考えて欲しい……」
重い言葉―――それは私の心に深く突き刺さった。
「ごめん……本当の事を言うとね、私、本命の女性に嫉妬してたんだよ。だって、ベットの上でどんなに優しい言葉を掛けてくれても、結局最後は本命の人の所へ戻って行くんだもん」
「だったら、もうセフレなんてやめなよ。他人のモノなんて欲しがらないでよ」
今にも泣きそうな顔で迫ってくる佑月の目は真剣そのもの。でもそれは、私にではなく、修のセフレに向かって言っている様な……そんな気がした。
「うん、もうセフレはやめる。やめるから……ごめん」
そうだ。私もやっと本当の恋を手に入れたんだ。真司さんの事を言えば、佑月もきっと安心してくれる。
「佑月、それとね……私、本気で好きになった人が……」
そこまで言った時、カウンターの上に置いてあった佑月のスマホが鳴り、チラリと見えたディスプレイには、修の名前が表示されていた。