『それは、大人の事情。』【完】
慌ててスマホを持ち店の外に飛び出して行く佑月を見て、口では修を許せないって言ってるけど、やっぱり、彼を愛しているんだと思った。
それと同時に、佑月の為に何か出来る事はないかと考えていたんだ。知らなかったとは言え、私は佑月の大切な修と関係を持ってしまった。
佑月が戻って来たら聞いてみよう。それが、親友の佑月へのせめてもの罪滅ぼし。
でも、いくら待っても佑月は戻って来ない。不思議に思い居酒屋の引き戸を開け外を見渡すと、降りしきる雨の中、少し離れた路上でうずくまってる佑月を見つけた。
飲み過ぎて気分が悪くなったのかと思い駆け寄り傘をさし掛けると、佑月が真っ赤に充血した目で私を見上げた。
「ゆづ……き?泣いてるの?」
「梢恵……私、もうダメだ……彼に、振られた」
雨音に掻き消されそうな掠れた小さな声。
「振られたって……彼が別れるって言ったの?」
「もううんざりだって。セフレの女の方がいいって……」
「……うそ」
最悪の展開になってしまった。でもまさか、修が佑月ではなくセフレを選ぶなんて……信じられない。
とにかく詳しい話しを聞こうと濡れた体を抱き起こす。が、佑月は泣きじゃくり、私の手を振り払う。
「今は誰とも話したくない。お願い……一人にして!」
「佑月……」
頑なに私を拒む佑月を見て、今は何を言っても無駄だと思い、仕方なく佑月をタクシーに乗せた。
佑月、私達、親友じゃないの?どうして私を頼ってくれないの?
走り去るタクシーのテールランプを見つめ言いようのない寂しさを感じていた。