『それは、大人の事情。』【完】
嘘でしょ……?
佑月が会議室に入って行っても、私は彼女の言葉を信じる事が出来なかった。だって、セフレを選んだ修を許すなんて考えられなかったから。
「待って、佑月!」
佑月を止めようと会議室のドアノブに手を掛けたところで、真司さんに引き止められる。
「やめておけ。森下がそうしたいと言ってるんだから行かせてやれ」
「でも……」
どうしても納得出来ないと言う私に、真司さんは修との話し合いの内容を教えてくれた。
「アイツ、セフレがいるとか言ったらしいが、本当は、そんな女なんていなかったんだよ。同僚と飲みに行ったバーで、たまたま隣に座った女と酔った勢いで関係を持ってしまったらしい」
「えっ?そうなの?」
「あぁ、その女が付けてた香水が梢恵と同じで、お前を思い出し、つい懐かしくなって誘ってしまったって言ってたよ」
オフィスに向かって歩き出した真司さんの後を追い「……本当にそんな理由で?」と聞くが、彼はどういう訳か、何も答えてくれない。
やっと彼が口を開いたのは、まだ数人の社員が残っているオフィスに入った時。でも、私が求めていた答えは返ってこなかった。
「朝比奈、明後日のフェアーで展示販売する商品のリストを至急、俺の部屋に持ってきてくれ」
「はい?リストですか?」
なんだそれ?そんなの私、持ってないんだけど……
「大至急だ。分かったな!」
険しい表情でそう言うと、真司さんは部長室に入って行く。