『それは、大人の事情。』【完】
ここが会社という事を忘れてしまったかの様に、真司さんの行為はエスカレートしていく。気付けばスーツの上着は脱がされ、肌蹴たブラウスからは黒のブラが露わになっている。
「真司さん……こんな所で……誰か入って来たら……」
「構うもんか。誰か入って来たら見せつけてやるさ」
これが冷静沈着な部長なの?こんなに取り乱すほど私を愛してくれてるの?
そう思うと嬉しくて、彼の手に自分の手を重ね小さな喘ぎ声を上げた。
「その声、北山にも聞かせたんだな?」
「でも今は、真司さんだけ。あなただけだから……」
彼の整った髪をワザと乱し、ソッと眼鏡を外すと私からキスを催促する。それが私の気持ちだから。誰よりもあなたを愛しているから……
それから数分、私達は濃密な時を過ごし愛を確かめ合った。でも、さすがに最後までは抵抗があり、ギリギリの所で踏み止まる。
「もう限界だ。俺のマンションに行くぞ」
「うん……」
惜しみながら体を離し服を整えていると、彼が私の腰を抱き甘い声で囁く。
「今週末に引っ越して来い。土曜日は娘が来るから日曜日。いいな?」
「分かった。これからは、家でも会社でも、ずっと一緒だね」
「あぁ、ずっと一緒だ」
私が外した眼鏡を掛け、いつもの姿に戻った真司さんが首筋に唇を這わせてくる。そして微かな痛みと共に、小さな赤い痕が私の肌に刻まれた。
「梢恵は、俺のモノだ……」
―――程よい束縛は、堪らなく心地いい。