『それは、大人の事情。』【完】
✤ 予想外の同居人


―――土曜日


明日はいよいよ、真司さんのマンションに移る日だ。彼の部屋にはほとんどの物が揃っているから、荷物は仕事で着るスーツと身の回りの物が少々。こじんまりとした引っ越しになる予定。


相変わらず今日もうっとおしい雨だけど、私の気持ちは晴々としていた。


先日行われた輸入食品フェアーは、修の計らいでサンプルを試飲用に回してもらえたし、佑月が発注ミスしたコーヒー豆も無事到着した。


真司さんには、報告なく無断で動いた事を叱られたけど、結果が良かったから上には報告しないと許してもらえた。


そして佑月と修……あの後、二人でじっくり話し合いやり直す事にしたらしい。修の裏切りは当然許されるモノじゃない。けど、それでも佑月は修を愛してると笑っていた。


それが佑月の出した答えなら、もう私がとやかく言う事はない。ただ、佑月には幸せになって欲しい。それだけが私の願い。


部屋の掃除を終え一息付くと、軽くメークを済ませマンションを出る。行先は、あのカフェ。


今日行かなかったら来週まで行けない。だからどうしても行っておきたかった。でも、理由はそれだけじゃない。


シトシトと降り続く雨に濡れない様に胸に抱えていたのは、お気に入りのショップの紙袋。あの日以来、全く白石蓮の姿を見なくなり、返しそびた彼の服が入っていた。


―――カフェに行けば、彼に会えるず。


そして、ようやく私の憩いの場に辿り着き、店の扉を開けたんだけど、雨にも関わらずランチ時のカフェは満席だった。


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