『それは、大人の事情。』【完】
「あっ、梢恵ちゃん、久しぶりだね。最近見ないからもう来てくれないのかと心配してたよ」
「ごめんなさい。仕事が忙しくて……今日も繁盛してるね」
そう言いながら、私は白石蓮の姿を探していた。
「あの……甥っ子の彼は?」
オーナーが一瞬、キョトンとした顔をする。
「蓮の事?梢恵ちゃん、蓮になんの用なの?」
オーナーの反応は至極当然。私と彼がここ数日、どんな関わりを持っていたかなんて、オーナーは知らないのだから。
一席だけ空いていたカウンターの椅子に座り、遠慮気味に言う。
「ちょっと渡したい物があって……」
「そう……実はね、蓮のヤツ、ここのバイトと清掃の仕事を掛け持ちしてたんだけど、ちょっと前から体調悪かったみたいでさ……何も言わないから僕も気付かなくて……
で、一昨日、とうとう熱出してダウンしちゃってね。きっと、疲れが出たんだよ。なんか悪い事したな~」
オーナーは責任を感じている様だけど、それは違う。彼が熱を出したのは、きっと私のせい。あのピアスのせいだ。寒い時期じゃないけど、深夜に三時間も雨の中に居たら風邪も引くよね。
「それで、まだ悪いの?」
「いや、熱は下がったんだけど、食欲がないみたいでね。食事を持って行っても全然食べてくれなくて困ってるんだ」
忙しく手を動かしながらため息を付くオーナーだったが、急に「あっ!」と声を上げ、カウンターから身を乗り出す。
「ねぇ、梢恵ちゃん、ランチご馳走するから蓮のアパートに昼ご飯持ってってくれないかな?」
「えっ?私が?」