『それは、大人の事情。』【完】
「だって、梢恵ちゃん蓮に渡したい物があるんでしょ?ついでに昼ご飯持ってってよ。店はこの通り猫の手も借りたいくらい忙しいし、なかなか持って行く暇がなくて……お願い!ねっ?」
確かに奥さんと二人じゃ大変だ。こうなったも私のピアスのせいだし、仕方ないか……
「じゃあ、フルーツロールも付けてくれる?」
「やれやれ、ちゃっかりしてるね~。いいよ。フルーツロールも付けちゃう!」
「ふふ……交渉成立だね」
てなワケで、ランチをご馳走になり、デザートのフルーツロールまで堪能した私は、白石蓮のお昼ごはんの雑炊が入った鍋を持って、オーナーに教えてもらった彼のアパートに向かった。
カフェから徒歩五分。細い路地の先にそのアパートはあった。古びたアパートの錆び付いた階段を上がり、表札を確認してチャイムを鳴らす。
部屋の中から足音が聞こえてくると、なんだか妙にドキドキして落ち着かない。
ヤダ、私ったら何意識してんだろう。頼まれたお昼ご飯と服を返すだけなのに……
足音が止まりドアがゆっくり開いた瞬間、私達はお互い「あっ……」と小さく声を上げる。
彼が驚いたのは、もちろん私がここに居たからだろう。そして私が驚いた理由は、白石蓮の格好を見たからだった。
「ちょっと、なんでそのジャージ着てるの?」
それは、私が貸した彼には小さすぎるジャージ。相変わらずチンチクリンで、見るからに窮屈そうだ。