『それは、大人の事情。』【完】
白石蓮が必死に懇願する姿を見て、気持ちが大きく揺れた。けど、心のどこかでこの子は本気でそう言っているのかと疑う気持ちもあった。
だって、こんな真っすぐな子、今まで会った事ない。純粋過ぎるよ。でも、これが演技ならこの子は相当な策士だ。
白石蓮の本心を探る様に目の前の顔をジッと見つめていたら、どうやら諦めたみたいで「やっぱ、ダメか……」と呟き、鍋と紙袋を素直に受け取った。その時―――
えっ?……うそ……
私の手に触れた彼の手は、燃える様に熱かった。
「ねぇ、まだ熱あるんじゃないの?」
慌てて彼の額に手を当ててみたら、尋常じゃない熱さ。
ついさっきまで彼を信じられず、部屋に入るのを躊躇っていた事も忘れ、フラつく白石蓮の体を抱きかかえて狭い玄関に足を踏み入れていた。
この子は下心で私を部屋に入れようとしてたんじゃない。本当に体が辛くて、だから心細くて、誰かに傍にいて欲しかったんだよね。
「君は寝てなさい。今、雑炊温めるから……」
白石蓮の部屋は、狭いキッチンと六畳の畳の居間があるだけのこじんまりとした部屋だった。若い男の子の部屋にしては珍しく綺麗に整理整頓されていて、キッチンのシンクもピカピカだ。
温め直した雑炊をお椀に入れ居間に持って行くと、彼は既に小さな寝息を立て眠っていた。なんだか起こすのが可哀想になり、暫く彼の寝顔を眺めていた。
「ごめんね……君の事、疑っちゃって」
まるで子供の様なあどけない寝顔に詫びると、頬にまだ少し残る小さな傷跡をソッと撫でた。