『それは、大人の事情。』【完】
沙織ちゃんは見てたんだ……やっぱり、もっと強く真司さんを拒めば良かった。でも、今更後悔してももう遅い。
野菜を洗いながら、子供にあんな場面を見せるなんて大人として最低だなと首を竦める。
出来上がったチャーハンを食べている間も、沙織ちゃんは一言も発せず、私を見る事はなかった。それに、お腹がすいたって言ってたのに、ほとんど残して食べてくれない。
元々好かれていなかったけど、これで完全に嫌われたな……
結局、その後も私とは話しをしてくれず、夕食も少し口を付けただけ。寝るまで真司さんにベッタリで、まるで私を真司さんに近付けない様にしているみたいだった。
それは真司さんも気付いていた様で、沙織ちゃんを寝かせつけリビングに戻って来てからずっと、浮かない顔をしている。
「……梢恵にも沙織にも悪い事をしたな……すまない」
「うぅん、沙織ちゃんの気持ちも考えず、いきなり三人で住むのは無謀だったんだよ」
「絵美から逃げる様に俺の所に来たのに、ここでも嫌な思いをさせてしまったな……」
落ち込む真司さんを見ていられなくて、私は自分のマンションに戻った方がいいんじゃないかと聞いてみる。
「いや、それはもっと困る。朝はスクールバスが近所まで迎えに来てくれるが、帰りは幼稚園が終わった後、そのまま同じ敷地内にある学童保育に預かってもらう事になってるんだ。
そこも夕方の六時までに迎えに行かなきゃいけない。俺はそんな早く帰れないから、梢恵に頼もうと思ってたんだよ」
「えっ……私がお迎えに?」