『それは、大人の事情。』【完】
✤ 繋がる過去
次の日、私は朝五時に起きてキッチンに立った。せめてお弁当は全部食べてもらいたい。その一心で慣れないお弁当作りを頑張った。
それが終わったら朝食を作りに三人分の洗濯。そして仕事に行く用意と、目が回る様な忙しさ。
一人暮らしの時はのんびりコーヒーを飲み朝のワイドショーなんか観てたけど、そんな余裕なんて全くない。世の中の主婦はこんな日常を送っているのかと改めて実感する。
「じゃあ、俺は先に出るから。沙織を頼む」
「うん、分かった。行ってらっしゃい。また後で……」
出掛けて行く真司さんに声を掛け、幼稚園の連絡帳に沙織ちゃんの健康状態を記入しながら忘れ物はないかチェックする。
週明けは着替えや上履きなど、持ち物が多いから大変だ。愛情をいっぱい詰め込んだお弁当をリュックに入れると、もうスクールバスが来る時間。
「沙織ちゃん、幼稚園行くよ~」
でも、沙織ちゃんは返事すらしてくれない。玄関で靴を履くと、サッサと部屋を出て行く。
やっぱり、私の事がイヤなんだ……
大きなため息を付き、自分のバックと沙織ちゃんの荷物を持って部屋を出た時にはもう、沙織ちゃんの姿はなく慌てて後を追う。
スクールバスが停まるのは、すぐ近くの図書館の前。初めてのバス停のはずなのに、マンションを出た詩織ちゃんは迷う事なく図書館の方に走って行く。
「あぁ……友達が居たのか」
図書館の前には、既に同じ幼稚園に通う子と母親らしい数人の姿があり、やっとの思いで追いついた私は息を切らしながら母親達に挨拶する。