smorking beauty

もしもこの一服を辞めてしまったら、どうやって諸々のストレスと折り合いをつけたらよいのか。

どう頭をひねってもリラックス方法が思いつかないのは末期のニコチン依存症なのだろう、とため息と一緒に煙を吐き出した。


「……あ、やっぱりここですか」

喫煙と禁煙の経済効率の差などという非生産的な考えを巡らせていたとき、綾香の背後から低い声がした。

綾香はドキリとして声のした方向を見ると、観葉植物に隔てられた壁の上からこちらを覗く後輩の姿があった。長身の彼は、喫煙者を隔離する植物の壁よりも、頭ひとつ分ほど飛び出している。

日村瑛士(ひむらえいじ)は「お疲れ様です」と、綾香の隣に腰を下ろした。

外から戻ってきてまだ時間が経っていないのか、彼の体からはここの空気よりもひんやりとした夜気を感じる。

「……うん、お疲れ」

綾香の簡素な言葉に苦笑を浮かべた日村は「疲れました」と素直に応じる。

「俺、出張帰りなんで、って、ちゃんとライン見てくれてましたよね? 既読になってたけど設計の部屋行ったら電気が半分消えてたんで、一瞬帰ったかと思いました」

日村から夕方、お土産を渡したいから待っていてほしい、とラインが入っていた。

近頃、立て続けに送られてくる日村からのラインを珍しく思いながらも、かつてよくなついていた後輩の気づかいに、綾香の心は和んでいた。
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