smorking beauty
例の禁煙した同期と顔を合わせたときも、話題の中心は日村だった。その話のなかで、日村の出張が課長の強い要請で決まったものだったと聞いたとき、着実にステップアップしてるのだと感慨を覚えた。

それは一抹の寂しさも伴っていたのだが。


「昨日の今日でいきなり出張だなんて言い渡されて、最悪でしたよ。俺、着替えもろくに用意してなかったんで、ワイシャツなんて現地調達ですからね」

日村の唇からぼやきの言葉とともに、白い煙が吐き出される。

顔を見るといつもより疲労度が高いようで、綾香は同情を覚えた。が、それは口に出さなかった。

体力的な疲労は休息をとれば復活できるし、そもそも日村は期待され充実した日々を送っているはずなのだから。

「ぼやくな、ぼやくな。それだけ可愛がられてるってことでしょ」

「下っ端はひたすらかばん持ちとしてこき使われるだけです。でもマジで課長、体力あるんですよね。夜あんなに飲んでも朝はしゃっきりしてるし。俺のほうが日に日に弱っていく気がしましたね」

「あの課長は、ザル飲みだからなぁ。でも美食家だから、毎晩ふぐとかもつ鍋とかとんこつラーメンとか、まぁ何かしらいいもの食べさせてもらえたんじゃないの?」

「あとは博多美人とか?」と綾香が茶化すと、日村は恨めしそうな目をして、もう一口煙草を吸い込んだ。

「……飲み屋なんて、お供で行っても楽しくないです。若いんだからガンガン飲め飲め言われるし、全然くつろげません」


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