smorking beauty
「ははは、確かに」

綾香は小さく笑いながらゆっくりと紫煙をくゆらして、その煙の筋の行く末を眺めた。それは日村の吐いた煙と交じり合い、やがて機械のなかに吸い込まれていく。

現金なものだと綾香は心の中で苦笑した。

ほんの何分か前には休憩した気がしないなどとと思っていたのに、こうやって日村と軽口を交わしているだけで、力の入っていた背筋が緩んだ気がするのだから。

日村が異動になった今、こうして週に何度か喫煙所で会って話す休憩タイムは、綾香にとってささやかな楽しみになっている。 

一方の日村も同じように、煙草の煙が溶けるように重なり合うさまを見つめていた。

正確には、煙の行方を目で追う綾香を見つめていたのだが。

日村は煙草を持っていないほうの手をコートのポケットに突っ込んだ。

「……高階さん、これ」

ポケットから出された日村の大きくて長い指が、茶色い包みにほどこされた黄金のリボン部分をつまんでいた。

綾香の目の前に差し出されたのは、どう見ても某有名チョコレートメーカーの箱だった。

バレンタインデー当日、今回の出張で不在だった日村の机の上はチョコレートの山ができていたらしい。綾香が聞いた話では、見かねた営業の女の子が山積みされたチョコをダンボールに詰めたのだとか。

甘いもの好きな綾香としてはチョコレート自体は食べたいけれど、その出どころがどうも気になる。本命とも義理とも見分けの難しそうなチョコなのだ。日村の貰ったそれを自分が食べてもいいのだろうか、と綾香はしょっぱい顔をした。

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