smorking beauty
綾香の戸惑いに気づいた日村は「違いますよっ」と強く否定した。

「これは俺のですよ。俺からのっ」

日村の慌て具合いを尻目に、綾香の頭にはシンプルな疑問が湧く。

ひとから貰う土産にケチをつけるつもりは全くない。が、日村が手渡そうとしているのは九州の名産品にはほど遠く、賞味期限だって別段急がないはずのチョコレートだ。

「えーと福岡土産って……明太子かなんかじゃなかったの? や、別に文句じゃなくてさ。待っててって、てっきり生ものだと思ってただけで」

「なんで俺が福岡土産にこれ買うんですか。そっちじゃないですよ」

そっちじゃなければどっちなんだ、と突っ込みをいれたい綾香だったが、日村の表情が微妙なものになってきたので、これ以上の感想をぶつけるのは遠慮しておいた。

「あー、出張なんてなければ。ね、高階さん。先週の約束ちゃんと覚えてます?」

「うん? ああ、覚えてるよ。飲みに行こうって誘ってくれたやつでしょ」

一緒に仕事をしていたころは、どちらが誘うというわけでもなく飲みに行く機会など腐るほどあった。課の同僚を交えることもあったし、ふたりで飲んだこともある。

だが営業課に異動したとたん、日村の生活は一転した。営業ゆえの接待も断然増えたし、接待のない日は日中できない書類作りに忙殺されてる毎日だ。
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