彼女は僕に恋をした。
ななみ
バイトから僕の小さなアパートの部屋に戻ると、ななみはひざを抱えて、泣いていた。



小さな嗚咽の割りに、大粒の涙が、ななみの目からこぼれては彼女の水色のワンピースに暗い染みを作った。



僕は、ななみに声を掛ける代わりに、優しく彼女の頭を撫でた。


子供のような、純真な目で、ななみは僕を見上げた。



「今日も、三月には、会えなかったの。もう、一生会えないかもしれないね」



「今日も、三月を探してたの?」




「私は、三月と過ごせるはずだった日々を、捨ててしまったから、もう、会ってもらえないんだよ、きっと」



僕は、ななみの肩を抱いて、隣に座り込んだ。



「もっと早く、気づいてたら、よかったのに、ななみ」



「三月は私のことを、いつだって、待っててくれたから、大丈夫だって、思った」
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