それは、小さな街の小さな恋。
もうどうしたらいいか分からなくなって、初子ばあちゃんに挨拶すると空になったお重と洗濯物を持って病室を出てしまった。
今のなんだったの。
かつてないほどの距離感。
私達の関係には相応しくない雰囲気。
どこをとっても、いつもの俊ちゃんと私じゃなかった。
早く家に帰りたい。というか、診療所に。
予定より長く診療所を空けてしまった。加代さん、皆、お父さんごめんね。
未だうるさい心臓と火照った体を引きずって、取り敢えず出口を目指す。
ナースステーションの前を通り過ぎようとしたとき、ふと、『北上先生』というワードが耳に入りつい足を止めてしまった。
「北上先生のおばあさんのお見舞いにくる人、彼女じゃないよね?」
「え?妹さんとかじゃないの?」
「私もそうであって欲しいと思って、こっそり夜間面会受付の名簿みたけど、苗字違ったわよ。」
え、そんなところまでチェックされてるの?怖いよ。