それは、小さな街の小さな恋。
「ーー第一病院前、第一病院前です。お乗りのお客様はお急ぎ下さい。」
まずい。バスがついたみたいだ。
凍りついたように動かない足をなんとか引きずってバス停へと急ぐ。
ねえ、俊ちゃん。
俊ちゃんのお父さんってお医者さんなんだね。
俊ちゃんのお母さんってあんなに綺麗な人なんだ。
お父さんの病院継ぐの?
俊ちゃんのお父さんとお母さんって離婚したんじゃなかったの?
だから、この街に来たんじゃないの?
今まで、俊ちゃんのことなら何でも知ってると思ってた。
だけど、私本当は何も知らない。
俊ちゃんの事情も、俊ちゃんの抱えているものも。
俊ちゃんの一番近くに居たはずなのに、そう思っていたのは私だけで、実は一番遠い場所で眺めていただけなのかもしれない。
ねえ、俊ちゃん。
俊ちゃんの中で、私は今どこに居ますか。