それは、小さな街の小さな恋。


「豆腐屋とまた飲みに行くことになって…。」


出たよ。今月何回目だと思ってるの。


「もう、お父さんの分まで作っちゃったよ。」


今更、だ。もっと早く言ってよ。あぁ、気合い入れて栗ごはん作ったのに。


「そう怒らないでくれよ。代わりにこいつ置いていくから。」

「え?」


お父さんの謎の言葉とともに現れたのは。


「よう。」

「俊、ちゃん。」


じゃあな、と陽気に出て行くお父さんの背中を見送りながら、ボーッと突っ立ったまま、またもや思考停止。


言葉を交わさない静かな私たちの後ろで、土鍋だけがグツグツと忙しく主張していた。


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