それは、小さな街の小さな恋。


「初子ばあちゃん、来週には退院できそうだって。」

「ああ、俺も聞いた。退院の日は大二郎さんに迎えを頼んだ。」

「そうなんだ。」


会話しつつも、頭にあるのは今日の午後の俊ちゃんとお母さんのやり取り。


もう、気になることが多すぎる。

私の知らないことが多すぎる。


知らない、教えてもらえていないということは俊ちゃんも知られたくない、教えたくないと思っているのかもしれない。

でも。

それでも、気になってしまう。俊ちゃんのことが知りたい。


もし聞いて、嫌そうな顔をしたらすぐに話を変えよう。

俊ちゃんの家のこと、聞いてみよう、そう思って俊ちゃんへと視線を移すと、俊ちゃんの視線とかち合った。


箸を机へと置いた俊ちゃんは、妙に真剣な顔つきで私の目をじっと見つめ、ついに口を開く。


もしかして聞く前に教えてくれるつもりなのかと少し身構えた私は少し姿勢を整えた。

その少しカサついた口から出る言葉はとんでもないものだと知らずに。


「かの、結婚しないか?」



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