それは、小さな街の小さな恋。
右手に持っていた箸がころりと転げ落ちる。
え、今なんて言ったの。
もしかして、私の聞き間違えかな。そうだよね。
だって今、『結婚』って。
「俊ちゃん、今なんて言ったの?」
「だから、結婚。」
「…なんで?」
意味がわからない。なんでそんなこと、言い出したの。
「お互い悪くないだろ?よく夫婦みたいだって揶揄されることも多いし。俺たち、結婚しても上手くやって行けると思んだよな。」
それって、実家を継がずうちの診療所を継ぐため?
そのために、妹としか、子分としか思ってない私と結婚する気なの。
「かの?おい、どうした?」
気づいたときには、頰には涙が伝っていた。
堰を切ったように流れる涙は、自分の意思とは無関係に止まりそうにない。
普通だったら、冗談でしょう?て笑うところ。
冗談でも軽々しく言うなって怒るところだ。
なのに、なんで私は今泣いてるの。
なんで、こんなに苦しいの、悲しいの。
「悪かったって。もうこんな冗談言わないから。」
そう言って俊ちゃんは私を慰めたが、流れ出した涙は止まらなかった。