それは、小さな街の小さな恋。
「あいつは、藪下の兄貴なんかじゃないよ。」
そうだとしたら俊ちゃんって私の何なんだろう。
そんなことを言われたら、私が今まで保っていたものが崩れてしまう。
もう崩れてしまっているのかもしれないけど。
「俺は、藪下が一番苦しんでるときに声をかけることさえも出来なかった。」
「そんなこと…。」
一番苦しんでるとき、それはお母さんが死んだときのことだろう。
富澤君の表情は、とても悔しそうで何故か申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
「結局藪下はあいつしか見てないんだよ。」
「…え?」
「昔も今も、藪下の心の奥深くに入れるのはあいつしかいないんだよ。」
「…そ、それは!俊ちゃんは、小さい頃から一緒にいて…。」
兄妹みたいに育ったから、そう言おうとしたけどダメだ。
そんな『いい訳』富澤君にはもう通用しない。