それは、小さな街の小さな恋。
俊ちゃんとこの街。
「かのちゃん、浜中のおじちゃん今日来られないって。」
受話器を下ろした加代さんが予約者リストをめくりながら言う。
「え?薬大丈夫でした?」
「薬はまだ来週の火曜まであるわ。なんかね、お孫ちゃんが産まれそうなんだって。」
「へえ、それはめでたい。」
浜中のおじちゃんは、今日来るはずだった患者さんだ。
その浜中さん宅の一人娘の茉奈さんは、臨月に入ると出産のため嫁ぎ先から戻ってきていた。
確か予定日はまだ先だったはずだけど、早まったのかな。
とにかく、今は無事に生まれることを祈るのみ。
ーーーギィ
茉奈さんの安産を祈っていると、午後一番の患者さんが来院し、扉が嫌な音を立てた。
そろそろ油を差さないとな。