それは、小さな街の小さな恋。
一方藪下家もお母さんが亡くなってからは、初子ばあちゃんの家で晩ごはんを食べることが多くなった。
特に俊ちゃんが家を出てからは、だいたいおばあちゃん家で食べている。
「うわぁ、美味しそうなお味噌汁!大根たっぷりだ。」
温めていたお鍋の蓋をあけると、ふんわりと心の底から安心するような、そんな優しい香りが溢れでた。
今日の夕飯は、豚の生姜焼きとひじきの煮物に大根と油揚げのお味噌汁だ。
どれも俊ちゃんの好きなものばかり。
うん、渋いな。
「そこの八百屋さんの大根が安かったからね。」
嬉しそうにそう言う初子ばあちゃんは、いつだって笑顔で穏やかだ。
早々にリタイアして田舎へと越していった父方のおじいちゃん、おばあちゃんと元々四国にいる母方のおじいちゃん、おばあちゃんに会う機会の少なかった私は、初子ばあちゃんのことを本物のおばあちゃんのように思っていて、初子ばあちゃんも本物の孫のように可愛がってくれている。