それは、小さな街の小さな恋。


もう少し揉んでくれよ、と聞こえた気がするが無視して自分の家へと向かう。


やっぱり何でこんなやつが人望あるんだ。

腹が立つ。


荒々しく戸を閉めると、外の意外な寒さに思わず身震いをしてしまった。


梅雨前の夜は、まだ少し肌寒くて。

でもそれが気持ちよくて。


さっきまでのイライラなんて吹っ飛んでしまうから不思議だ。


俊ちゃんは昔から横暴で、口が悪くて、私のことなんか子分としか思ってなくて。

まあ私も、俊ちゃんのこと兄貴分としか思ってないけど。


でも、だから俊ちゃんには何でも言える。他の人には言わないことも、言えないことも。


そんなやり取りができるこの距離感が、心地いいなんて口が裂けても誰にも言わない。

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