それは、小さな街の小さな恋。
お母さんと梅干し。
私の父 藪下大二郎とその妻 梅子は、れっきとした恋愛結婚だったらしい。
出会いは私が生まれる6年前。
当時、養護教諭として働いていたお母さんは赴任して来たこの街でお父さんと出会った。
この街の学校での検診は、昔から藪下診療所がやっていて、そうして出会った2人は6年という月日を経て結婚し、私が生まれたのだ。
お父さんは言う。
お母さんと会うたびに胸が高鳴って、会えないと胸が苦しかったと。
一目でも会えないかと学校の周りをうろついて、不審者扱いされたこともあると何故か自慢げに話すお父さんは、今もなお幸せそうで。
だからかな?
私の中で結婚とは恋愛で、恋愛とはきらきらと輝いているものに感じる。
目が合うだけでドキドキとか、言葉を交わすだけでキュンっとなって、隣に居るだけで幸せ、みたいな。
そんな子供じみたものを今でも恋愛に求める私だから、誰に言われたって俊ちゃんを恋愛対象として見ることができない。
だって、小さい頃から隣にいることが当たり前だった。
むしろ、隣にいれないことなんて考えたこともなかった。