それは、小さな街の小さな恋。
「今年こそは初子ばあちゃんみたいに真っ赤に染められるかな。」
「うーん、こればっかりは年の功だからね。」
「そうだな、母さんも苦労してたし。」
紫蘇を塩で揉み込むとき、初子ばあちゃんは綺麗な赤色を出すのに対し、私は少し紅色っぽくなってしまう。
比べるとその差がはっきり分かってしまい、毎年今年こそはと意気込むけれど初子ばあちゃんほど綺麗な赤には染まらない。
お母さんもなかなか上手くいかなかったらしいけど、私からするとお母さんの紫蘇も綺麗な色が出ていた。
お母さんはきちんと指輪を外して揉んでたけど、お父さんはそのままするもんだからよくお母さんから怒られてたっけ。
そして俊ちゃんは私が嫌がるのをよそに、真っ赤に染まった手を顔に近づけようとして。
それを縁側で初子ばあちゃんが笑いながら見てる。