それは、小さな街の小さな恋。


俊ちゃんがお水を一気飲みしている間に食卓に晩ごはんを並べ、一緒に席につく。


まずはピーマンの肉詰めをがぶり。美味しそうに黙々と食べる姿を見ていると、作った甲斐がある。


次に、冷奴を半分に割り口の中へと持っていった。


「おい!これ、みょうがが入ってんじゃねえか!」


俊ちゃんが眉間に皺を寄せながら指をさしたのは、お豆腐の上に乗ったみょうがと小口葱、オクラを和えた薬味だ。


実は俊ちゃんは昔からみょうがが苦手だ。
今回は気付かれないようにかなり細かくっ切ったのに。

独特の風味が嫌いなんだとか。あれが美味しいのにな。


「夏になると何にでもみょうが入れやがって。」

「みょうがおいしいじゃん。」

「うるせえ、みょうが食うと忘れっぽくなるんだぞ。」

「迷信だよ、そんなの。お医者さんがそんなこと言っていいの?」


なぜだか昔からよく迷信を口にする俊ちゃん。

『霊柩車が通るときは親指を隠せ』とか『夜に爪を切ると親の死に目にあえない』とか結構うるさい方だ。


初子ばあちゃんはあんまり迷信とか信じない人なのに。

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