それは、小さな街の小さな恋。
同級生とりんご飴。
いつもは、昼間に賑わうこの商店街も今日ばかりは夜が本番だ。
「お父さん、頼まれてた焼きそば買ってきたよ。」
「お!鹿乃子、ありがとう。ついでにビールなんかもあるといいんだけどな。」
「ダメだよ!なんのためにここにいると思ってるの?」
お父さんがいるのは、夏祭り実行委員会本部テント横の救護テント。
そう。お父さんはお祭りを楽しむ為にここにいるのではない。
「おお、かのちゃんか。梅ちゃんかと思ったよ。」
「ほんとだ。ますます似てきたな。」
豆腐屋のおじさんと交番の仲道さんが、私の浴衣姿を見ながらしみじみとそう言う。
初子おばあちゃんが着せてくれたこの着物は亡くなったお母さんのもの。
白地に濃紺で菖蒲を描いたこの浴衣は、すごく大人っぽくて。
お母さんみたいに着こなすのが夢だった。