それは、小さな街の小さな恋。
「富澤、くん?」
巾着袋から視線を上げ、声のした、八百屋さんの屋台の中を見ると同級生の富澤君がいた。
「久しぶりだな、藪下。」
「え、待って。なんでここに富澤君がいるの?」
富澤君は、高校入学とともにこの街を去ったはずだ。
私に、何も言わないまま。
「親父の腰痛がひどくなってさ。戻ってきてくれ、てラブコールが煩かったから先月帰ってきたんだ。」
「全然知らなかった…。」
富澤君は中学を卒業すると、都内の全寮制の男子校に行き、そのまま都内の大学へ、そして都内の企業に勤めていたはずだ。
まさか、八百屋を継ぐために戻ってきてたなんて。
あれほど、家業を継ぐの嫌がってたのに。