それは、小さな街の小さな恋。
大人っぽく、て。
だって、私達中学卒業以来なんだから。
「藪下は、結婚してないの?」
「え?!してないよ!」
大きな声で言うことじゃないのに。
富澤君からの予想外な質問に思わず、大きな声で否定してしまった。
そんなことを言われると、私も気になって富澤君の昔よりも男らしくなった手を覗く。
左手の薬指には何もついてない。
でも、仕事中だし付けてない可能性もあるよね。
思い切って直接聞こうと思ったとき、
「すみません、きゅうり1本下さい!」
元気な声に振り返ると、花の冠を付けた女子中学生が2人。
屋台の前を女子中学生たちに譲り、富澤君に軽く目配せをして背を向けると、後ろから呼び止める声がした。
「藪下!今度、飯にでも行こう。」
「…うん。」
富澤君の方を振り返り、少し迷いながらでも力強く頷いてその場を去った。
過ごしやすくなった終わりかけの夏の夜。
少しだけ香る秋の匂いに戸惑いながら、帰路に着いた。