それは、小さな街の小さな恋。


大人っぽく、て。
だって、私達中学卒業以来なんだから。


「藪下は、結婚してないの?」

「え?!してないよ!」


大きな声で言うことじゃないのに。

富澤君からの予想外な質問に思わず、大きな声で否定してしまった。


そんなことを言われると、私も気になって富澤君の昔よりも男らしくなった手を覗く。

左手の薬指には何もついてない。


でも、仕事中だし付けてない可能性もあるよね。
思い切って直接聞こうと思ったとき、


「すみません、きゅうり1本下さい!」


元気な声に振り返ると、花の冠を付けた女子中学生が2人。


屋台の前を女子中学生たちに譲り、富澤君に軽く目配せをして背を向けると、後ろから呼び止める声がした。


「藪下!今度、飯にでも行こう。」

「…うん。」


富澤君の方を振り返り、少し迷いながらでも力強く頷いてその場を去った。



過ごしやすくなった終わりかけの夏の夜。

少しだけ香る秋の匂いに戸惑いながら、帰路に着いた。



< 64 / 153 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop