それは、小さな街の小さな恋。
『今月中には一度こちらへ帰って来なさい。』
有無を言わせないそのメッセージは、なぜか受取人でもない私の心さえも締め付ける。
送り主は、『母』。
私は今まで、俊ちゃんのお母さんに会ったことがない。
それどころか、話さえ聞いたこともない。
私にとって俊ちゃんの『実家』とは、この街の初子ばあちゃんの家だ。
あの年季の入った、でも長居したくなるような、そんな居心地の良い初子ばあちゃんの家だ。
俊ちゃんがテストで100点を取ったときも、ここでは一番レベルの高い高校に合格したときも、野球の試合で大怪我をしたときだって、いつも一緒に居たのは初子ばあちゃんだ。
俊ちゃんを支え育ててきたのは、初子ばあちゃんだ。
見てはいけないものを見てしまった気がした。