それは、小さな街の小さな恋。
慌てて駆け込んだ隣町の大きな病院の受付で、初子ばあちゃんが運び込まれた手術室の場所を聞き、そこへと急ぐ。
病院内をバタバタと走ってごめんなさい。でも、今だけは許して。
手術中と赤いランプがついた扉の前には、俊ちゃんとお父さんが神妙な顔で立っていた。
「俊ちゃん!」
眉間に皺を寄せたまま振り返った俊ちゃんは、白衣姿だ。
そうか、ここは俊ちゃんが勤める病院だ。
混乱し過ぎてて気づいてなかった。
「鹿乃子。よかった、無事に来れたんだな。父さんは診療所に戻るよ。お前は俊のそばに付いててやれ。」
「うん。診療所のことよろしくね…。」
「ああ。」
お父さんはそう言うと、私の手から車のキーを取り、励ますように俊ちゃんの背中を叩いて忙しげに真っ白な廊下を駆けて行った。