ラプラムル
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「なかなかいい眺めだな。よく見える、本島の煙が。今頃はたくさんの市民が集まっているのだろうな。」
たしかにいい眺めだった。
海風も心地いいし、暖かい日差しに満ちている。
「そうね。それにこのリーズの実、この前摘んだときは少し酸っぱかったけれど、今は熟したみたい。甘いわね。」
でも少しとっておかなくちゃ。
リーズパイを焼きたいもの。
「それより、ラプラムルの姫が生きていたら今年で16歳なんだな。」
「私たちと同じね」
「どんな感じなんだろうな。自分の子供が黒い髪で灰色の目だからって殺されるなんて。しかも1週間で。」
わたしも最近、よくそのことを考えてる。
私の父と母は私が生まれて1週間ほどたった日に事故で亡くなったそうだ。
1週間でわが子をなくすのと
1週間で親二人をなくすのは
どっちがつらいんだろう。
肉親の愛を知る前に失うのと、わが子に愛を教える前に失うの。
私にはおばあさまがいたから悲しみも苦痛も感じずにいられたわ。
だけどラプラムルの王様とお妃さまはどうなのかしら。
悲しみが尽きないからこうやって、縋るように点に煙を立ち上らせているんじゃないかしら。
なんか…
「…い、……おい!セゼリア?どうしたんだ?ぼーっとして。」
私はサゼルの言葉にはっと我に返った。
「わぁぁ、ごめんなさい。考え事をしていたのよ。」
「ふーん。まぁいい、そろそろ帰るか。家に帰ったらリーズのパイを焼くんだろ?明日食べに行っていいか?」
「サゼル、もしかしてそれ目当てでリーズを採りに行こうって言ったんじゃないでしょうね?」
「………ま、帰ろう!」
「サゼルってば!!」
もう、なによ。
そんな嬉しそうに。
まるで大きなわんちゃんね。
私は海辺を後にする前に振り返ってもう一度ラプラムルに立ち上る煙を見た。