あの頃のように笑いあえたら
あ、ここ……。

いつの間にか見覚えのある通りに出ていた。

前に源に誘われて一緒に来たカフェのある場所だった。

そっか、ここの道だったんだ。ここで時間潰そうかな。

こないだ源が美味しそうに飲んでいたカフェラテを注文する。

あの時ここで、源と2人で話しをした。

源は、優しい顔で私の話しを聞いてくれた。

ーー源……

今もあんな優しい顔をして、カンナと話しをしてるんだろうか。

こんな風に考えてしまう自分がイヤになる。

本当はもっともっと、余裕を持っていたい。こんなことくらいで逃げ出したくない。

パパ……恋って、こんなに苦しいモノなの?

美味しいはずのカフェラテも、なんだボンヤリとしていた。


モヤモヤした気持ちですごす時間は、やたらと長く感じる。
やっと休憩が終わる時間になったので、スタジオへ戻る。

「あれ、珍しいな、外出てたのか?」

入り口から入ってすぐに何も知らない源が大好きな笑顔を見せてくる。

そうだよね。源はただ、カンナと話をしていただけだ。

「あ、うん……」

でも私は、笑顔を作れない、源の笑顔が見れない。

「……どうかしたか?」

いつもの優しい声、優しい気づかい。

「ううん、なんにも」

ー ーダメだな、何やってるんだろ、私。

たったこれだけのことで、こんなに気持ちが揺れてしまう。

こんなんじゃ、ダメだ。
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