あの頃のように笑いあえたら
「……あのさ、前に、好きな人いるって言ってたじゃん」

「ああ、うん」

あの時私は好きな人がいるから、と彼の連絡先を受け取らなかった。

やっぱり、その話題になるよね。

「付き合ってるワケじゃないんだよな?」

「うん…そんな片思い」

そうだよ、片思いなんだよ。

源の姿が頭をよぎる。

「じゃさ、俺にもまだチャンスないワケじゃないよ、な?」

「ふふ、ん〜まあ……」

小橋くんの声が急に気弱になるからおかしかった。

「だよな!これからさ、少しずつこんな風に話したりしてもらえない、かな」

「え?あ、うん」

話しくらい、いいよね。

男の子にこんな風に言われるの、慣れてないからよく分からない。

こんな時、咲苗ならなんと言うのだろう。

振り払おうとしても、源の姿は頭から消えない。

「よかった!なんか、急に連絡先渡したりしたから、嫌われたかと思ってた」

……なんだ、いい子じゃん。

「いや、私小橋くんのこと全然知らないし、ちょっとビックリしちゃって」

「……だよな。ゴメン。じゃ、またな」

反対方向らしい彼は、電車が来ちゃうと、手を上げて改札を抜けて行った。

その背中を見送りながら思う。

カンナに誘われた源も、きっとこんな気持ちだったんだろうな。

自分に好意を持ってくれるのは、悪い気はしない。

でも何も知らない相手に、どう反応すればいいのか分からない。

源も、きっとそうだったんだ。
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