あの頃のように笑いあえたら
それから片付けも少しずつ進み、散らかった部屋を避けるようにみんなで縁側でそうめんを食べた。

私はこの場所が大好きだった。ううん、今でも大好きだ。

「ああ、私ここに住みたい」

不便だけれど、都会とは違う空と空気に癒される。

「あんた、ここに来るたびに、それ言うわね」

ママは笑う。

ママは、こんな田舎はもうウンザリなんだそうだ。

でも、私はここが落ち着く。

オシャレな店も、夜中でも明るいコンビニも、レンタルショップもないけれど。

静かな自然の音しかしないこの場所が、なんでかな、ホッとする。

こんな空間に、源と一緒にいられたらどんなにいいだろう。

きっと源も、静かな場所が好きなはずだ。

庭に投げ出していた素足を、縁側に引き寄せる。

ーー ねえ、パパ。

私やっと、自分という存在が分かった気がするよ。

控えめな『いとな』、やっぱり控えめなモデル『うる』。

どちらも同じ私。

どちらかに決める必要もないし、違っていてもいいんだ。

大きな自然の中にいる、小さな自分。

ここへ来ると、そんなことで悩んでいた自分が、ちっぽけに見えてくる。

源のことで悩むこともあるけれど、話を聞いてそばにいてくれる友達もいる。

ここでの、大切な思い出を胸に、私は前へ進める気がする。
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