あの頃のように笑いあえたら
「そういえばさ、源ってサッカーかなりうまいらしいね」

細かいことは苦手と言っていた真子が、作業に飽きたらしく手を止める。

「へぇ、サッカーよくやってるのは見るけど……上手いんだ」

教室から覗くグラウンド。

その姿は楽しそうに見えるだけで、誰がうまいのか私には分からなかった。

「うん、らしいよ。なんで、サッカー部入らないんだろうね」

私には分からないけど、亡くなったお母さんのことと、関係あるのかな。

「ん……なんでだろ?」

源のお母さんのことは、たぶん私しか知らないと思うので、濁らせておく。

きっと真子に話したとしても、源は怒ったりしないと思うけれど。

「ま、いろんな考えとか事情があるんだろうけどさ。英介がもったいないって言ってたから」

「うん、そうか」

ーーもったいない、か。

大人な真子は、何かを察してくれたのかそれ以上突っ込んで聞いてきたりしなかった。

本当は、サッカー部に入りたいのかな。

亡くなったお母さんや、お父さんとの生活のことはよく分からないけど、源が何かを抱えていることは分かる。

いつも寂しく光る目の奥で、いったい何を想っているんだろう。

私では、力になれないんだろうか。

私には、心を開いてはくれないだろうか。

大切な人には、いつでも笑顔でいてほしいのに。
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