あの頃のように笑いあえたら
源に触れられている腕から、早い鼓動が伝わりそうだった。

「おまえ、しんどい時はちゃんと言えよ」

「ん……ごめん。ありがとうね」

いつもは穏やかな源が、強い口調なのは珍しい。

私の腕から、ゆっくりと離された細く長い指を、しばらく見つめる。

久しぶりに2人きりになれたのに、行く先が保健室って。情けないな。

ゆっくりと歩いてくれている源に黙ってついて行く。

ーートントン

「失礼します」

「あら、芳川くんどうしたの?」

「あ、オレじゃなくて、こいつ」

源がまた私の腕を引く。
もう、いちいちキュンとする。

「あら、愛㮈ちゃん……喘息?」

保健の先生には、中学の時から何度かお世話になっている。

「咳、しんどそうだったから連れて来ました。」

「そう、ありがとう。吸入した?」

先生は私をソファに座らせてくれながら聞いた。

「……午前中に、1回」

張っていた気持ちが緩むと急にしんどくなってきた。

やっぱり連れてきてもらってよかったかも。

そう答える間に、先生は素早く私の胸の音を聞いている。

「ちょっと音悪いわね。もう1回吸入して少し休もうか」

「はい、すみません。ケホッ」

カバンから吸入薬を取り出して吸い込む。

「オレ、屋台戻ります。いとな、また後で様子見に来るから休んどけよ」

先生と私にそう言って、源は行ってしまった。

頼もしい背中を黙って見送る。
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