あの頃のように笑いあえたら
辛そうな源を見て、私はどうしたらいいのか分からなかった。

もう、話さなくていいよ、そう言ってあげたい。

でも、源は私に聞いてもらいたいと思っているのかもしれない。

分かんないよ、どっちなんだろう……?

「……サッカーばかりしてるオレを見るのが、辛いって。自分は息子に何もしてやれてないみたいだ……って……」

顔を埋めたまま、源は言った。

泣いてるんじゃないか、そう思ってしまうような震える声で。

「……」

なにも、なにも言えなかった。

そうか、源はお父さんのためにサッカーをやめたんだ。

気のきいた言葉は、なに一つ浮かんでこなかった。

そのかわり、手が動いていた。

目の前にある柔らかい源の黒髪を、優しく撫でていた。

本当は、その肩を思い切り抱きしめたかった。

しばらくして顔を上げた源は、泣いてはいなかった。

「ごめん……こんな話しして」

「え?ううん、私こそ聞いてごめん」

「……なんか、いとなには素直に言える」

ーー え……?

それは、素直に嬉しい。でも私……

「でも気のきいたこととか、言えないよ」

「聞いてもらうだけで、じゅうぶん」

そう言った源は、少し微笑んでいた。
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