あの頃のように笑いあえたら
その強がりな笑顔を見たとたん涙が出そうになり、慌てて下を向く。

「えっ?なんでおまえが泣く?」

うん、そうだ。泣くのは私じゃない。

しゃーねーな、と言って今度は源が私の頭を撫でてくれる。

フワリ、と暖かい源の大きな手。

やっと、分かった。

源の寂しさの訳が。

お父さんと長い間離れていて、お母さんを亡くした悲しみを、うまく共有できなかったんだ。

本当は、思い切りサッカーをやりたいんだ。

「……遅く、ないよ」

涙を堪え、顔を上げる。

「え?」

「まだ、大丈夫だよ。お父さんとちゃんと話してみなよ。源の気持ち、伝えてみなよ」

私の顔を見つめながら、源は遠くを見ている。

大丈夫、源のお父さんならきっと分かってくれる。

源の、素直な気持ちを。

「……ん。そうだな……」

そう言って源はまた立ち上がり、リフティングを始める。

一回一回、丁寧に蹴り上げられるボールを、私も黙って眺めていた。

今すぐじゃなくていい。

少しずつ、ゆっくり前に進んでほしい。

ー ー大好きな、源
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