あの頃のように笑いあえたら
じゃあ、あの時。ブランケットを掛けてくれた優しい手や、優しい言葉。

私が愛㮈だって分かってたんだ。

『うる』だからじゃなかったんだ。

ちゃんと『わたし』を見てくれていた。

なんで、気づかなかったんだろう。

「……えっ?おい?」

いつの間にか、目から涙がこぼれていた。

「っあ、っごめん……なんでも、ない」


ーー 嬉しかった。


初めて愛㮈だけじゃない、うるだけでもない、ちゃんとわたしを見てくれている人がいた。

「……ごめん、いろいろ聞いて」

私の涙を見たからか、申し訳なさそうに目を伏せる源。

そんな源を見ても、首を横に振ることしかできなかった。

ちがう、違うよ。そうじゃないよ。

「……聞い、てくれて、ありがとう」

私の精一杯の言葉に、柔らかい、照れた笑顔を見せる源。

ーー笑えるんだ。

クールなんかじゃない、無愛想でも無関心でもない。

本当はきっと純粋で優しいコなんだ。

でも、なんでそんなにいつも、淋しげなんだろう。

こんなに人を惹きつけるような笑顔を持っているのに。

私は、源に話せてホッとしていた。
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