あの頃のように笑いあえたら
まだ肌寒さの残る3月末、薄手のコートを羽織り帰り支度をすませる。

「あ、うるちゃん。次の号、表紙決まったよ」

マネージャーの大森さんだ。

私を、熱心にモデルの世界へ誘ってくれた人でもある。

「え?表紙?もう夏特集ですよね?」

「うん、テーマはミステリアス!だから表紙はうるちゃん〜」

いつもこのテンションを保てるのは、一種の才能だと思う。

「あはは、なるほど」

また愛想笑い。

「来週、撮影だからねーよろしくぅ」

「はーい、お疲れ様でしたぁ」

表紙か……久しぶりだな。

まだコート着てるのに、もう夏特集。

なんだかなぁ……この先取り感にどうしても馴染めない。


この仕事は嫌いじゃない。

キレイな洋服を着て、みんなに可愛いと言われ、出来上がった写真はまるで別人の仕上がりだ。

悪い気がするはずはない。

でも、この世界で変われると思っていた私は、今は『うる』と『いとな』の狭間でもがいている。
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