あの頃のように笑いあえたら
『うる』と『いとな』が同じ。

自然に、当たり前のように源はそう言った。

この仕事を始めてから、ずっと心の中で葛藤していた2人の私。

目の前で静かに寝息を立てる源が、こんなにも簡単に、あっさりと、2人を結びつけてくれた。

スマホの画面越しに、寝顔を見つめる。


ーーああ、やっぱり私は源が好きだ。


「源くんも、いつもこんな感じ?」

最後の一口を、名残惜しそうに口に運ぶ大森さん。
彼女でも、声を潜めることはできるんだな。

「はい、こんな感じですよ」

大森さんは、笑顔で私たちを見つめている。

「なんか、やっぱり似てるね、2人」

「はは、そうですか?」

似てる……か。

もう一度、穏やかな寝顔を見つめる。

人見知りで不器用で、でも本当はとても思いやりのある源。私はこんな風にみんなに優しくできているだろうか。

「ちょっと出てくるね」

暫くすると、大森さんは出て行ってしまった。

また、静かな部屋に、2人きり。

源には静かな場所がよく似合う。

彼の持つ、優しく穏やかな空間。

そろそろ時間だな……まだ、2人でいたいけど。

たまらずにその、柔らかな黒髪にそっと触れる。

ーートクン!

その手を、そのまま優しく肩へと乗せる。

「……ん?もう時間……?」

眩しそうに目を細め顔をあげる君を、私は心からの笑顔で迎える。
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